都内から日帰りで酒蔵見学・利き酒体験|女性杜氏の醸す世界に認められた日本酒をしっとりと味わう

茨城 #利き酒 #女性杜氏 #稲葉酒造場 #酒蔵見学
2022.04.18

「今週の週末は何をしようかな?」

「いつもとちょっと違った贅沢な体験がしたい」

「新しいことに触れてみたい」

…なんてお考えの方へ。

茨城県つくば市の筑波山の麓に、稲葉酒造という創業150年の酒蔵があります。稲葉酒造では、恋愛の神が祀られている筑波山に流れる「男女川」という川の名前を取った地酒を江戸時代より造っています。

そして、杜氏は男社会の酒の世界では珍しい女性です。女性杜氏が醸すお酒は、シンガポール、ロンドン、香港、LAなどの世界各国で認められ、日本酒の「古くさい」や「美味しくない」といったステレオタイプを見事に覆しました。

30代で酒の世界に入り、女1人ではじめた酒造り。「若すぎる」、「女だから」などといった声に負けるどころか、それをバネに世界をも頷かせる日本酒を造っている杜氏・稲葉伸子さん。

本記事では彼女へのインタビューを交えながら、都内からも日帰りで立ち寄ることのできる酒蔵見学、蔵人が日本酒の歴史や造りの拘り、美味しい飲み方を教えてくれる利き酒体験を紹介します。

fix茨城県つくば市・稲葉酒造へ行ってみよう

秋葉原駅からつくばエクスプレスで終点つくば駅まで45分。そこから、バスまたはタクシーで筑波山麓の稲葉酒造へと向かいます。

稲葉酒造場は江戸時代の末期に創業し、筑波山神社の御神酒を造り続けてきました。筑波山は山全体が御神域とされていて、男女の神が祀られている恋愛のパワースポットです。

地酒として150年来造り続けられ、地元の人から愛されている「男女川(ミナノガワ)」はあの小倉百人一首でも恋の詩として歌われています。

“筑波嶺の 嶺より落つる 男女川

恋ぞつもりて淵となりぬる”

陽成院(13番)『後撰集』恋・777

なんともロマンチックですよね。そんな神聖な地で、蔵の敷地内から湧き出る新鮮な水を使用し、女性が醸すお酒とは一体どういったものなのでしょうか?

女性杜氏・稲葉伸子さんの日本酒へかける想い

日本でも数少ない女性杜氏の稲葉伸子さん。元々は会社員で娘が2人いた伸子さんは、30代の時に会社を辞め、家族代々営んできた酒の道に進むことを決心します。

幼い頃から身近にあった酒の世界

「物心ついた頃から、蔵のおじちゃんたちが働いている酒蔵が大好きで、小学校から帰るとランドセルもおかず火炉敷にいって新潟弁の蔵人たちの話を聞いたり、蔵ではどんなことをしているのかを見に行ったりするのが楽しみでした。うちの蔵は、毎年冬になると新潟から越後杜氏が来ていたので…」・・と遠い目で懐かしみながら笑顔を浮かべる伸子さん。

−それでは、日本酒のお仕事に幼い頃から興味はあったのですか?

「その頃は全くお酒の世界に進むとは思っていませんでしたね。私は姉と二人の女姉妹で、父から酒蔵を継げと言われたことはありませんでした。蔵のことは考えず、進学し、企業に就職して、結婚して娘2人を出産しました。企業で働いているときは、どんどん仕事を任せてくれるのにやりがいを感じて、仕事を辞めるとは一度も思ったことはありませんでした。家では母でもあり妻でもあったので、20代後半〜30代の初めは家と会社の往復をがむしゃらに楽しんでましたね。」

−酒蔵を継ごうと思ったきっかけは?

「『酒蔵がなくなっちゃったらどうしよう』っていう気持ちはずっとありました。これまで5代続いてきた家業。私がやらなかったら誰がやるの?と思い、夫からの支えもあって、継ごうって決心したんです。」

若さも性別も武器に

−右も左もわからずに日本酒の世界に飛び込んだということですよね?

「そうなんです。絶対に私にならおいしいお酒を造ることができるって自信だけはあったんです。でもやはり、男社会の中で酒造りを女にできるわけがないと同業者からのみでなく、実の父からも言われてしまい…」

−それでさらに燃えたんじゃないですか?

「はははは、その通りですね。お酒って、元々を辿ると巫女さんだけに醸すことが許されていたんです。私も女性ならではの繊細さや、お酒の外の世界から学んだアイディアや、若さを活かした感性をお酒造りに活かせないかなと思って。」

そして、伸子さんが初めての造った渾身の1タンクは瞬く間に全て完売しました。そのお酒をひと口含み、「うん」と頷いた父の姿に「やっと、認めてもらえた」と確信したそうです。

世界で認められる

「海外を視野に入れるまでは、15年間国内・地元でのみ販売していたんです。本当においしいお酒を蔵元直送で、味をわかってくれる人にだけ届けたかった。国内だとどうしても大手さんのブランド名で選ばれる方も多いことは感じていたので…」

−そんな時に、伸子さんの旦那さんが「海外でやってみようよ」と声をかけられたと聞きましたが

「そうなんです。お酒の仕事を始めてからはもう無我夢中でお正月の休みもとっていなくて、海外は娘たちが小学生の時に家族で行ったっきりでした。でも、もしかしたら海外ならブランド名でなく本当の味を分かってもらえるのかもと思って、チャンスに掛けてみたんです」

そして、輸出も軌道に乗り、世界大都市の高級レストランを中心に輸出開始。

「昨年はイタリアに呼んでいただき、酒ソムリエになりたいイタリアの若者たちに本当の酒造りについて講義してきました。異国の地で、こんなにお酒に対して興味を持ってくれる人がいるなんて、強い情熱を感じて感激しました。」

「シンガポールの取引先のレストランでは、私の造ったお酒を呑んでいる方をたくさん目の当たりにして、自分でも海外で自分のお酒を呑んでみたら『私がやってきたことは正しかったんだ』って嬉しくて涙がこみ上げてきましたね。今までの手間ひまかけた酒造りの苦労が報われた瞬間でした。」

そんな稲葉酒造のお酒は、世界最高峰といわれているインターナショナルワインチャレンジやLAワインコンペティションで2年連続受賞し、着実にその美味しさは評価されています。

稲葉酒造での体験

稲葉酒造ではフレッシュなお酒を蔵元から直接買うことができるほか、酒蔵見学(※要予約)、蔵を改装したスペース蔵CAFÉでの利き酒体験ができます。

酒蔵見学

お酒を作っている酒蔵の見学ができます。※要お問い合わせ

稲葉酒造は手造りに拘り、年間の生産量もとても多いわけではない謂わば「ブティック・ブリュワリー」です。酒造りの裏側は中々見る機会がないので、大自然に囲まれた小さな酒蔵を目で見て楽しんでください。

蔵CAFÉで利き酒

見学をしたら、次は舌で愉しみます。江戸時代末期に建てられた酒蔵の一部をそのままリフォームし、CAFÉスペースとしてオープンしています。ここでは蔵元・伸子さんおすすめの旬のお酒を3種、利き酒セットして販売しています。

プロの酒造りへのこだわりや酒造りの工程、日本酒の愉しみ方など、普段中々聞けない話を蔵人の方がレクチャーしてくれます。もちろん、日本酒に関する質問もできるので、新しい学びを得られるでしょう。

ちなみに、利き酒の際の和らぎ水は蔵の敷地内より湧き出る仕込み水です。とても美味しいお水なので、こちらもぜひ味わってみてください。では、早速見てまいりましょう!

まずは「男女川 純米吟醸」

代々作り続けられている地酒「男女川」。地元の人に愛されてきたつくばを代表するお酒です。キレがあり、食中酒にもぴったり。食材の旨味を引き立ててくれます。ウイスキーを普段から好んで飲む方は、男女川が好きなはず。男性や日本酒に精通している方、和食好きにおすすめです。

続いて「すてら 純米大吟醸

すてらとは、ラテン語で星の意味があります。こちらは伸子さんの代になり、彼女がプロデュースした新しい稲葉酒造のブランド酒です。

「冬の厳しい寒さの中で、自宅と酒蔵を行き来しながら酒造りを行なっている際にふと空を見上げると、満天の星が励ますように輝いていた」と伸子さん。伸子さんの夫の旧姓が星ということもあって、「すてら」と命名されました。

すてらはフルーティーでとっても華やかで香り高く、喉越しが良いので、お酒が今まで苦手だったという方でもスッと飲めます。普段白ワインを飲む方におすすめで、女性や若い方、外国の方にも人気です。

おいしい日本酒の呑み方Tips

酒ソムリエの筆者が、おいしい日本酒の飲み方のTipsを紹介します。

1. いいお酒は冷やして呑む!

純米大吟醸などのクラスの高いお酒は、冷やして呑むのがおすすめです。熱燗だけがお酒じゃありません!いいお酒ほど、5~10˚Cで愉しむのが良いでしょう。ディナー前にボトルを食卓に出して、だんだんと室温に戻っていく中で味や香りの変化を愉しむことができれば上級者です。

2. 日本酒はワイングラスで

日本酒を呑むときはワイングラスが粋でいいでしょう。ワイングラスを使用すると、香りもしっかりと愉しむことができるので、純米のお酒は特にワイングラスをおすすめしています。

3. 和食だけじゃなくて洋食に合わせて

日本酒はお寿司や和食を食べるときだけの飲み物ではありません。白身魚のカルパッチョや生牡蠣、ウニのパスタ、和牛ステーキなどにも合います。普段ワインを合わせるシチュエーションで、日本酒を取り入れてみると分かりやすいかもしれませんね。

というのも、日本酒はワインよりも簡単に食事とのペアリングができると証明されています。日本酒に含まれるアミノ酸はワインの約6倍。このアミノ酸が食事の旨味を引き出す役割をしてくれます。フレンチやイタリアンと日本酒をぜひ合わせてみてくださいね。

稲葉酒造 詳細情報

詳細情報

料金
商品ごとに異なる ※酒蔵見学も別途必要

定休日
水曜日

営業時間
9:00-18:00 ※酒蔵Caféは10:00-17:00

住所
〒300-4353 つくば市沼田1485番地

電話
029-866-0020

アクセス
首都圏新都市鉄道つくばエクスプレス「つくば駅」から学園東通り/県道55号と国道408号線を経由して約25分

駐車場

公式ホームページ

http://www.minanogawa.jp/

※情報は2022年3月時点のものです。最新情報は、ホームページをご参照ください。

まとめ

稲葉酒造とその女性杜氏・稲葉伸子さんについて紹介をしてきました。次の週末はちょこっと足を伸ばして、日本酒について学んでみるのはいかがでしょうか?

つくばは自然も豊かで、田舎風景や新鮮な空気になんとも癒されます。いつもと違った贅沢なひと時をお過ごしください。